ディズニーが生成AI「Midjourney」を提訴 なにが問題?著作権侵害の要件は?

2025.06.17

1. ディズニーとNBCユニバーサルの訴訟内容概要

アメリカのエンターテインメント業界を代表するウォルト・ディズニーとNBCユニバーサルが、AI画像生成サービス「Midjourney」を著作権侵害で訴えたというニュースは大きな話題を呼んでいます。

訴状によれば、両社が保有する人気映画やキャラクター―たとえば「スター・ウォーズ」に登場するヨーダやライトセーバーを用いた画像など―を無断で模倣し、ユーザーに生成・配布している点が問題視されました。

ここで注目されるのは、生成AIがトレーニングに使用したデータの著作物保護という大きなテーマです。ディズニーたちは、世界的人気を誇るキャラクターが不正に利用されることで、ブランドイメージの毀損や想定外のコンテンツ拡散が引き起こされると主張しています。

一方で、ハリウッドの大手がそろって生成AIを訴えるのは初めてとして、世間的なインパクトも非常に大きいといえるでしょう。

さらに、ディズニーをはじめとする原告側は、著作権法に基づいた差止命令や損害賠償を強く求めています。具体的には、無断で生成された画像や動画の配布自体を禁じるよう裁判所に訴え、著作権を守るためのAI監視体制をより厳格に求めているのです。

これまでMidjourneyは暴力的表現やアダルトコンテンツを抑制する技術を導入してきましたが、著作権保護に関する具体策は不足していると指摘されました。

とはいえ、AIコンテンツ生成は既存のマニュアル制作に比べて手軽であり、ビジネスにとって魅力的な技術であることも事実です。だからこそ、この訴訟は“生成AIの社会的広がり”と“著作権の厳格な保護”のどちらを優先すべきかという、非常にデリケートなバランスを浮き彫りにしています。

今後の裁判所の判断が、この先のAI画像生成サービスのあり方を左右する重要な分岐点になるかもしれません。

2. AI技術と著作権侵害の現状

生成AIは近年、機械学習やディープラーニングの進化によって飛躍的に性能が高まり、AI画像生成ツールとしてMidjourneyなどが一般ユーザーの間でも広く普及し始めました。

一方で、AIによるコンテンツ制作が急速に浸透しているにもかかわらず、著作権法が想定していなかった領域が拡張し続けているのが現状です。

著作物をベースに学習した技術が、“独創的な新しい画像”とみなされるのか、それとも“もとの著作物をコピーしたに過ぎない”のかを判断するには、法律上の明確な指針がまだ十分に整えられていません。

とりわけ、ハリウッドのように知的財産権の保護に力を入れてきた企業にとっては、AIが紡ぎ出す模倣表現が看過できない脅威と捉えられています。

実際に、ディズニーやNBCユニバーサル以外にも、権利者がAI企業を訴える事例が増え始めています。映画スタジオや出版社がAIに対して差止命令を請求する動きが表面化し、AI迂回利用によるコンテンツ無断流用に警鐘を鳴らす声が強まっています。

こうしたAI訴訟事例は、著作権保護がデジタル著作権の枠組みを超えて、技術者やクリエイターにも直結する重要案件となることを示しています。

しかし、AI技術者としては、AIコンテンツ生成による利便性を活かしつつ、いかにして著作権侵害のリスクを最小化するかが課題です。

生成AIのアルゴリズムは膨大なデータセットを使用しますが、そのデータセットに包含される著作権作品をどう扱うかが焦点になります。たとえば、学習に使用する素材についてライセンス契約を結ぶ、あるいは公共ドメインのデータのみを活用するなどの方法が考えられますが、体制整備が不十分だと大きな法的リスクに発展してしまうのです。

このように、著作権法の空白地帯につけ込むわけではないものの、実質的にAI技術は既存の法制度と噛み合っていない部分があります。だからこそ、AIと法律の“橋渡し役”としても、さらに詳細な議論とガイドラインが必要とされているのが現状です。

3. 訴訟が示唆するAI技術の法的課題

今回のディズニーとNBCユニバーサルの訴訟は、AI法的課題を浮き彫りにしています。その代表的なものの一つが“データセットの扱い”です。

開発企業が著作権で保護された作品をトレーニング用データとして収集・利用する場合、その利用範囲がフェアユースや日本法でいう引用の範囲に当たるのかどうかの線引きが、国によって微妙に異なります。

さらに、新しいAIアルゴリズムがどの程度“著作物を転用”しているかを明確に説明しづらい状況もあり、技術的にも法的にも厄介なポイントとなっています。

特にDeepFake的な合成技術やキャラクターの特徴を抽出して新たな映像まで生み出す可能性があるサービスでは、AIとエンターテインメント産業の間に潜む摩擦がさらに深刻化するかもしれません。

こうした背景から、今までは曖昧にされがちだったAI監視の重要性が増しています。具体的には、AI生成コンテンツがどの作品をもとに学習し、どのように加工・生成を行ったかをトレースできるような仕組みづくりが求められるのです。

判例やガイドラインがまだ少ない中で、大企業が訴訟を提起したことで、各国の法制度でも“AIコンプライアンスをどう試みるか”という問題意識が高まっていくと期待されます。

また、AI差止命令の設定基準は技術開発者にとって大きなリスク要因です。どのケースで差止請求が容認されるのかが不透明だと、安心して研究開発が進められません。

実務的には、“データの取得・利用契約を明確化する”“プロンプト入力などで違法利用を防ぐフィルターを実装する”など、具体的に使える対策が必要です。これらは開発初期から法的視点を念頭に置くことで、後々のトラブルを未然に防げます。

判例が示す結果が、今後のAI開発全体における法的リスクの見直しや規制設計の参考指標になるでしょう。

4. 著作権保護とAIの技術的対策の必要性

著作権保護を確立しながらAI技術の進歩を促すには、具体的な防止策とガイドラインが欠かせません。まず焦点となるのはデジタル著作権と知的財産権の管理方法です。

AI開発者は、学習データに含まれるコンテンツのライセンス状況を把握し、法的に適切な素材を利用する仕組みを組み込む必要があります。

技術的対策としては、AIモデルにコンテンツフィルターを導入することが挙げられます。たとえば、ユーザーがキャラクター名や作品名をプロンプトに入力した際、権利者の許諾なしに無断模倣されないよう制限をかける方法です。

実装面では、学習時に“許可されたデータのみ”を使用し、無許諾素材はトレーニングから排除するオプションを実行します。また、出力された画像にメタデータを付与し、生成元を追跡できる仕組みを設けることも有効です。

法的観点では、AI生成コンテンツが二次的著作物とみなされるかを慎重にチェックする必要があります。許諾のないキャラクター再利用は損害賠償リスクを高めるため、訴訟前にAI倫理と権利保護双方の観点を考慮しましょう。

著作権保護とAI技術開発は相反しません。法的に健全な枠組みを整えることで、イノベーションを長期的に持続できます。この機会に、AI技術者は契約書や著作権法を学び直し、社内にAIコンプライアンス文化を醸成することが望まれます。

5. 業界への影響と今後の展望

ハリウッド大手がAI画像生成サービスを訴えた今回の一件は、業界全体に大きな警鐘を鳴らしています。今後、他の映画スタジオやコンテンツホルダーが追随し、AIと著作権侵害をめぐる訴訟が相次ぐ可能性があります。

これはAI法的課題を巡る企業間競争だけでなく、AI規制や著作権法見直しを促す契機となるでしょう。

一方で、過度な規制はイノベーションを妨げるとの声もあります。創造性と権利保護を両立させる仕組みづくりが大切です。たとえば、AI開発会社が正式な提携スキームで権利許諾を得ながら研究開発を進める道も残されています。

AIとエンタメの融合は多彩なサービスを生み出す可能性を秘めています。映画やゲーム制作でAI画像生成がアイデアを迅速にビジュアル化する支援ツールとして活躍するなど、競争力強化につながる面も見逃せません。

しかし、そのメリットを長続きさせるには、データ出所や著作権所属の整理が不可欠です。AI訴訟事例を学び、対策を講じる必要があります。

将来的には国際的なAIコンプライアンス基準や業界ガイドラインが整備され、著作権侵害を回避しながら革新的AIコンテンツを生み出せる体制が期待されます。訴訟リスクを恐れて実験的技術を封印せず、知的財産権を尊重しつつイノベーションを進める姿勢が重要です。

今後もAI差止命令や損害賠償などの動向を注視し、AI画像生成技術の健全な発展を目指すことが、エンターテインメントとAIの未来を左右する鍵となるでしょう。